失われた新地駅を、再び(完成編)



東日本大震災で失われた、福島県 新地町にあった常磐線の新地駅。

1/64スケールのジオラマとして完成し、新地町に納品してきました。


完成_新地駅_3

元々あった新地町の空の下、駅があった向きで撮影したところ、まさに駅がその場によみがえりました。

完成_新地駅_12


駅前に駐車された車を、種類が豊富なトミカスケールで設計した為にこの1/64スケールに設定したのですが、私にとっては初めてのサイズではなく、代表作の1つ「トタン壁の造船所」でも作っておりましたので、作り易い大きさではありました。設計するにあたり、駅舎のみを考えておりましたが、新地町の方のアンケートの中で「駅の横にあったトイレまで再現してほしい」という要望を受けて、それも細かく再現することにしました。

新地駅制作3


すると・・・背後にみえるペパーミントグリーンが印象駅な反対側のホームに行く為の橋「跨線橋」まで作らねばならず、結果的に、想定したジオラマサイズを遥かに越える大きさに!
予算は駅舎製作のみですでに確定していましたので、こうなれば「予算ありき」ではなく、もう旧新地駅がここにしか存在しないのであれば、徹底的に作ることを主軸として作ることを決心したのでした。
もちろん、予算もそうですが、それ以上に欲しいのは「時間」。この夏は、書籍「作る!超リアルなジオラマ」の執筆と、富山の個展開催、そして平行している他のジオラマ製作作業を同時施行で行なわねばならず、本当に時間がないのが、最大の苦しみでした。

ジオラマサイズを広げると、けっこう大味になり、「ジオラマ」というよりも博物館に収蔵してあるような展示品になりがちなので、配置は熟考しました。結果としては私らしい完成品のサイズになりました。


新地駅ジオラマ全貌


新地駅を利用していた人は、そらから見ることはなかったと思いますが、この駅の特徴は華やかなオレンジ色の日本瓦、そして赤く塗られたトタン屋根、ペパーミントグリーンの跨線橋、そしてとても華やかな水色のトイレ!
この配色はまるで欧州辺りにありそうな、とてもかわいらしい駅舎のような配色で、田舎の駅舎としてはモダンな印象で、さそがし訪れた人の記憶に残ったことと思います。


今回のジオラマでは、「何処かにありそうな」シーンではなく、確実に実在していた建物なので、いつものように「妄想」で補完する訳にはいかず、なんども写真資料と照らし合わせながらの作業になりました。
納品する為に、運送業者に渡す数時間前に、作業途中でしたが、いつものように自宅のベランダで撮影した写真と、当時の駅舎の写真を並べて、おおよそ上手く再現できたことを確認!
時間があれば、シュロの木はもっと細かく、また葉を多くして実物に近づけたかったなぁと。


新地駅ジオラマ


駅の魅力は正面ではなく、ホーム側にあります。
このジオラマは両面から楽しめる利点があります。

完成_新地駅_9

完成_新地駅_5

背景にある電柱をうまく借景に取り込み、電柱などの影の角度を、ジオラマを傾けながら調整すると、自分でも驚く程にリアルな風景が目の前に現れました。

完成_新地駅_2


大きな範囲で作ったジオラマは、日光下で真上から撮影すると、まるでGoogleマップの写真のように!


完成_新地駅_16


書籍「作る!超リアルなジオラマ」で、ジオラマの配置を説明する為に、普段あまり見たことがない真上写真を撮影したところ、自分でも足がすくむ様な高さを感じて驚きました。今回もこの写真が撮りたくて、大きなレイアウトにしたのですが、これもよい写真が撮れました。


町の人に披露した際に、やはり皆さんが「懐かしい!」と賞賛してくれた「トイレ」の存在。

完成_新地駅_6

小さなトイレですが、中に仕切りがあり、外側からとホーム側からと2面で使い分けが出来たという証言から、それぞれの角度で、しっかりと見応えがあるように作り込みました。

完成_新地駅_7

「兎に角、臭かった」
「よほど我慢できなければ、使いたくなった」

利用者の印象はあまり良くなったようですが、それゆえに思い出に残る存在のようです。


利用した人にとってはなんども通った「改札口」

屋根を取り付けてしまうと確実に見えなくなりますが、可能な限り、再現しました。

駅舎内1

駅ホームにもあり、その色合いでジオラマのよいアクセントになると考えた「点字ブロック」は、PCソフトイラストレーターで作った原稿を元に、ステンレスのエッチングパーツを特注して、使用。2種類のブロックも、実際に配置されていたように貼付けました。


また、喫煙者には印象深いと思われる、ホームの端に配置された喫煙コーナーも再現。

新地駅喫煙所

駅のディテールは、やはり利用者の日常に密着しているアイテムほど、作り込り込めばかなり緻密に、リアルになるので、キリがありません。やはり時間はもう少し欲しかったというのが本音ですが、期待以上の物が生み出せたと思います。

お披露目の会が終った頃には、とても綺麗な夕日が現れていました。

ジオラマ撮影の〆として、新地の町の夕日の中で撮影すると、自分でも不思議と「そこに住んでいて、何度も駅を使った様な」気持ちになりました。

完成_新地駅_1


新地駅夕日2

こうして、あの震災で失われた新地駅をジオラマでよみがえらせるプロジェクトに幕を下ろしました。

今年の12月初旬には、震災から5年の歳月を経て、ようやく常磐線が全線開通して、新地町に新しい駅舎が誕生します。
駅が産まれた瞬間に、この木造駅舎は「旧新地駅」という名前になり、人々の記憶の中だけの存在になってしまいます。
しかし、このジオラマの中で、この駅はあの頃のままの姿で、いつまでも存在し続けて欲しいと願い、「懐かしさ」といううよりもそこにまだ存在しているような雰囲気で生み出しました。

この後は、新地町の沿岸部に造設中の緑地公園内のビジターセンターに、このジオラマが展示される計画です。
それまでの間は、町の役場に展示される予定ですが、まだ詳細は決まっておりません。
是非、このジオラマを見に、新地町を訪れて欲しいので、詳細が決まりましたらお知らせいたします。

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プロフィール

情景師・アラーキー

Author:情景師・アラーキー
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■ 情景作家
■ 1969年生 居住地:東京・杉並 

「日常にあふれるさりげない光景」を立体化する事が得意なオールラウンドジオラマ作家。昭和ノスタルジーからアニメシーン再現まで製作範囲の守備範囲は無限。むしろ挑んだ事がない題材を与えられると燃えるタイプです。

「生み出すものに魂を込めて作る職人のようにありたい」・・・と願って「情景師」を名乗っています。

<過去の作例活動経歴>
●電撃ホビーマガジン
●電撃スケールマガジン
●モデルグラフィックス
●アーマーモデリング
●モデルカーズ
●パンツァーグラフ
●エクストラマガジン
(スペインの模型雑誌)

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